しかし本当に、根岸の里で、わび住まいができたでしょうか? 「根岸の里」「わび住まい」が存在したのは、いつまででしょう? 実際に、台東区根岸を歩いて、考えてみました。
1冊の本が散策のきっかけ
実をいうと、根岸を散歩してみたいと思ったきっかけが、八重洲ブックセンターで買った1冊の本でして、
東京の町を読む 下谷・根岸の歴史的生活環境 |
この本には根岸の街並みの様子はもちろん、街区ごとの住居の特徴や、家の構造まで記録されていて、なかなか面白かったのです。
そして、本の12ページの一部を引用しますと…
ここは奥州裏街道が江戸から郊外へ出る地点に当っていたため、面的に広がるのではなく、街道に沿って帯状に発達した。 しかも戦災、戦火を免れたため、その帯状部分には、伝統的な町屋とその裏の路地をはさむ長屋群が今なお生き続け、江戸時代以来の下町の構造をよく示している。
どうです!? 気になりますよね!?
しかし、この本の初版は昭和56年(1981年) 30年以上経っているわけです。
果たして、その町並みは、どれほど残っているのか… そこも気になる。
なので、行ってみた。 というわけです。
こちらが、現在の金杉通りの様子。 元々の奥州裏街道であり、昭和通りが開通するまではこちらがメインストリートでした。
かつては都電の21系統(千住4丁目~水天宮前)も通っていました。
本によると、金杉通りにはまだ伝統的な町家が立ち並んでいたそうで、瓦屋根の建物や長屋を至る所に見受けられたようですが…
30年も経てば、街の様子は様変わりするわけであります。
伝統的な町屋とその裏の路地をはさむ長屋群… なんてものは、見当たりません。
コンクリートの建物ばかり。 マンションもたくさん建っています。
とはいえ、マンション化の波は今も押し寄せています。
この写真に「マンション建設反対!」の看板があるのが、分かりますでしょうか?
マンションの建設予定地を、見つけてしまいました(・_・;)
そういえば、ここは「根岸の里」でしたね。
根岸の里の侘び住まい… という言葉が日本社会に存在し続ける限り、根岸にはブランドが付きます。
たとえマンション暮らしでも、根岸の里という言葉に惹きつけられる私達。
根岸の里は本の内容とは、様変わりしていました。 下町らしい一戸建て住宅地が基本ですが、マンションも所々に建っている街でした。
わび住まいは、戦前の話
しかし、そもそも、「根岸の里のわび住まい」は、いつまでできたのでしょうか?
想像するしかありませんが、想像してみようではありませんか。
この地図は{今昔マップ on the web(c)谷 謙二}{国土地理院 電子国土Webシステム}{カシミール3D}を使用しています。この地図画像の元である地図は、国土地理院の地形図[2万分の一東京首都明治42年測図]です。 |
こちらは1909年(明治42年)の根岸周辺の地図です。 路面電車が途中まで通っているのが見受けられます。
それよりも、根岸の北側は、まだまだ田畑が目立ちます。
根岸の北側、現在の荒川区は、関東大震災の頃あたりから、急速に宅地化が進みます。 被災者が住宅地を求めた事に加えて、荒川放水路(現在の荒川)の建設により、水害の危険が軽減された事も要因ではないかと私は考えているのですが、いかがでしょう?
根岸の里のイメージ図 |
やはり川があるのとないのとでは、わび住まいの趣は違うと思うんですよね。 川は安らぎを与えてくれます。 風景として重要ですよ!
音無川は暗渠化されましたが、今も台東区と荒川区の区境という形で、私達の生活に影響を与えています。
そして、音無川が暗渠化された時期も、急速に宅地化が進んだ、昭和初期のようなのです。(昔の地図やウェブ情報から)
という事は…
根岸の里の風景が無くなったのは、何も、伝統的な町屋の風景が無くなりマンション建設も進んでいる平成時代ではなく、先ほどの本が書かれた30年前には、すでに存在していなかった! と考えられますよね。
わび住まいが似合う根岸の里の風景は、明治時代までであり、市街地化が進む大正期には徐々に変化し、音無川が暗渠化された昭和戦前期に無くなった。 と考える事に、私は決めました。
…だって、そう考えた方が「昔は良かった。昭和は良かった。VIVA!三丁目の夕日!」的な懐古思考に陥らずに済むじゃないですか。
根岸の名所。御行の松
江戸時代から有名な大木。御行の松も、音無川のそばにありました。
(この写真で、奥に進む細い道が、元々の音無川です)
現在の御行の松は3代目だそうです。
初代 御行の松 |
…説明書きによると、なんでも、地中から掘り出したそう。 そこまでするか(^_^;)
…あと、それが本当に初代の御行の松だという証明はどのように…? あ、そういうのは野暮ですね。
今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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